フェイル・セイフ~未知への飛行~
出し抜けシネマ論⑨~これがホントの苦渋の決断~
『十二人の怒れる男』は密室サスペンスの傑作にして最高峰でしょう。しかも、監督のシドニー・ルメットはこれが長編デビュー作と言うからタダものじゃない。
『フェイル・セイフ~未知への飛行』はそんなルメットが1964年に撮った作品で、毛色はだいぶ違うものの、密室劇の秀作。この人、けっこういろんなタイプの映画を撮っているんですけど、やはりこうした社会派サスペンスでこそ、匠の手になる日本刀のような切れ味を発揮する監督だと思います。
『フェイル・セイフ』の舞台はアメリカとソ連が核をちらつかせて睨み合う冷戦の時代。ちょっとしたシステムの故障と当時に、ソ連側が新型の妨害電波を放つという不運が重なって、水爆を搭載した米軍機に「モスクワを壊滅せよ」という命令が下ってしまいます。
もちろん、アメリカ側に敵意はなく、大統領もソ連のトップとホットラインで密に連絡を取り合いながら、最悪のシナリオの阻止に努めます。
「いったん命令が出されてから5分が経過すると、口頭での命令変更はいっさい無効となる」という設定が秀逸。つまり、一定時間が経過すると、敵側が大統領の声をマネして架空の命令を偽装する恐れがある……そのため、大統領が命じた作戦であっても、5分経過すると、その大統領ですら口頭での指示変更はできない!
大統領もこの爆撃機に無線で連絡し、水爆投下命令はただのミスだから引き返せ! と必死で説得を試みますが、軍規を叩き込まれた立派なパイロットたちは聞く耳を持ちません。
こうして解決の糸口もないまま、映画はすさまじいクライマックスへとなだれ込んでいきます。パイロットの奥さんが登場してやはり説得を試みるシーンはスリリングで迫力満点。映画の中のクライマックスのひとつでしょう。
とにかく予算がなかったらしく、物語はほとんど、大きなモニターのある作戦司令部と大統領の執務室のみで進んでいき、どちらもコンクリートが打ちっぱなしのシンプル極まりないセットなのですが、この無駄を排除した雰囲気が妙にリアルで生々しく、サスペンスを盛り上げるのに一役も二役も買っています。
悲劇へのカウントダウンが始まるなか、アメリカ大統領のとった苦渋の決断とは? これはもう驚きとしか言えませんね。『ミスト』に匹敵する驚愕のエンディングでしょう。
身勝手な意見で場を混乱させる識者や、いざというときに固まってしまう大佐、大統領から相手の心の動きまで訳してほしいと言われる若い通訳など、いろんなタイプの人間が集まってドラマを紡いでいくスタイルは、『十二人の怒れる男』でも見せたようにこの監督の真骨頂。とくに、大統領役を毅然と、かつ、人間臭さを醸しながら演じるヘンリー・フォンダがたまらなくいい。
妙なCGを使わなくてもいい映画は作れるというお手本のような傑作。ただし、邦題は映画の内容をまったく伝えていないので赤点。
評価:★★★★☆
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コメント
おおー、またまたトランスレーション猫さんと意見が合いましたね!これは、いまどき誰も語らない名作!つい先月DVDを私もすでに10回目くらいですが、観ました!ルメットは要注意ですよ!もちろん『12人~・・・』は最高ですが、これもいい!同じく主演はヘンリーさん!この人はアメリカの良心みたいなキャラやらせると抜群の味を出しますね。設定もすごいし、私の好きな、いろんなセットが出てこない映画『12人』もそうですが、観客に想像させる無責任さは今の時代にはありえません!ビバ!しかし、いまだに名作『質屋』がDVD化されないのは、世の中どうなっているんでしょうか?困ったもんだ、この作品なんて知っている人の方が断然少ないですからね。
投稿 Yukon Jack | 2008年6月 2日 (月) 13時35分
私は対になっていると言われるキューブリックの『博士の異常な愛情』よりも『未知への飛行』のほうが好きですね。ドラマがあって。『質屋』オークションで買いますかね……。
投稿 とら猫 | 2008年6月 3日 (火) 15時57分