後編。
なんと卑劣な。
電話でのさわやかな対応は客を店まで誘い込むための偽りの顔で、その裏ではしたたかに算盤を弾いていたのか。
客がのこのこやってきたらあとは簡単だ。挨拶代わりの「買い取れません」ジャブで出鼻をくじき、間髪入れずに、「ただし、一円でなら私の裁量で買い取りましょう」と恩着せがましく追い打ちをかける。
希望を粉砕された客は意気消沈し、自暴自棄になって一円での
買い取りを承諾する……。
これが敵の描いたシナリオの全貌である。
舐めるな、アルバイター。
いくら私が零細な翻訳人でも、そんな浅薄なお為ごかしに騙されるほど嘴は黄色くない。
罠を見抜いた私は勝ち誇った笑みを浮かべると、
「ふっ、十年早い」
とだけ言い残し、風のようにその場を去った。今頃あの店員は地団駄を踏んで悔しがっているに違いない。呪うがいい、おのが未熟さを。
が、静かなる戦いには勝ったが、後部座席には今もなお、ばかでかいマッサージチェアがでんと居座っている。こいつをなんとかしなければやはり私の負けである。
と、沿道にひっそりとたたずむ流行ってなさそうなリサイクルショップが。藁にもすがる思いで入店し、スタッフらしきおばちゃんにチェアの買い取りについて訊いてみると、好条件で買い取ってくれると言うではないか。
私は快諾して金銭を受け取ると、嬉しさのあまり、そのおばちゃんに、御麩
ハウスでは買い取り価格が一円だったんですよ、と愚痴ってみたところ、おばちゃん、話に乗ってきて、いや、あたしもね、あそこにごみ袋三つぶんの洋服を持ち込んだら三百円とか言われてね、ほんと頭にきちゃったわ~と憤慨、他のスタッフもわらわら集まってきて、あそこの店はひどい、悪徳商法だと仕事もそっちのけでわいわいやり始めた。
私は、それじゃ、と言ってから店内をひとまわりし、帰りのエレベータに乗るため、レジの横を通った。
と、相変わらず話に盛り上がっているおばちゃんのひそひそ声が耳に入った。
あ、一円の人よ、一円の。一円の人のお帰りよ……
他のスタッフもおばちゃんに同調して、一円の人、一円の人と中途半端な小声で連呼している。
私はなんだか自分の価値が一円しかないように思えてきて、やるせない気持ちでエレベータに乗りました。とほほ。
最近のコメント