ラーメンの恨みは時を超えて
母がえらい昔のこと、それも比較的どうでもいい、私と一緒にラーメン屋に行ったときのことを鮮明に覚えていたからである。
とはいえ、あのときのことは私も覚えている。
当時、大学生で千葉に下宿していた私は、久しぶりに帰った実家で、母になんか食いたいもんがあるかと訊かれたので、前々から「神奈川のラーメン繁盛店」というガイドブックで目をつけていたラーメン屋さんに行くことにしたのだ。むろん、母のおごりで。
車で店について慄然とした。
店の風貌がほったて小屋、戦後のバラックのようで、いかにも流行っていなさそうな雰囲気がぷんぷん漂っていたからである。
しかも、駐車場がやたら広かった。
大型トレーラーが何台でも停められそうな広大な敷地に、ぽつんとプレハブ式のラーメン屋が建っているその構図は、駐車場つきのラーメン屋というよりもラーメン屋つきの駐車場と呼んだ
ほうがふさわしく、一見して異様だった。
さりとてガイドブックで繁盛店と太鼓判を押されている店である。ラーメン屋は中身で勝負だ。
そう思って中に入ってみると、やっぱり客は私たちだけだった。ほの暗い明かりに浮かぶ、店主らしき男の疲れた笑み。
肝心のラーメンも店主の無気力が伝染したような空虚な味で、麺もぐにゃぐにゃに萎えてしまっていてまったく腰がない。底なしのまずさだった。
と、私はまあ、このときの記憶を、「ラーメン本の言うことを信じるべからず」という教訓になったなあという程度にしか捉えていなかったのだが、自らの懐を痛めてラーメンをおごった母の恨みは深かった。
何かの拍子にラーメンの話題になったとたん、そのときの恨みを実に十数年越しに、堰を切ったようにぶちまけ始めたからである。で、私は冒頭に言ったように驚いたのだった。
このラーメン屋、今ではつぶれて更地になっているそうな。合掌。
| 固定リンク
「猫のつぶやき」カテゴリの記事
- 中国文化研究のこと(2009.11.19)
- タイトル変更のお知らせ(2009.11.18)
- ラーメンの恨みは時を超えて(2009.10.28)
- 巷で流行りの「風呂掃除ルック」(2009.10.07)
- 麻雀のお話(2009.10.05)




コメント
かと言って・・・
お母様の積年の思いは、これで晴れたわけではないのでしょうね
やはり食べ物は基本ですので、それしきのことで晴れるとは思えません。
やはり、とら猫さんとお母様の間では、「ラー」ではじまる物は封印すべきかと?
ラー油も唐辛子油とか、クーラーも冷房とか・・・
秋模様のバック、綺麗ですね♪山里の当地も、色づいてきました。
それにつけても、ピーター・クリスさんが乳がんとは?
ビックリしているまめままです。
投稿: まめまま | 2009年10月29日 (木) 11時05分
秋ですね!!奇麗ですよ!!
ラーメンって、極端ですね。美味しいか、まずいかどっちか。って思いませんか??
ここのお店・・・お母様の記憶から無くならないでしょう。
どこか美味しいお店にでも連れて行って差し上げたら忘れるかな??
投稿: fukko | 2009年10月29日 (木) 15時53分
昔のラーメン本はあてにならなかった?
んですかね~。。。
今はそれほどまずいラーメンを載せてる本とか
ないような気がしますが・・・。
投稿: もちゅみ | 2009年10月29日 (木) 17時57分
まめままさん。
母に、たたみかけるように文句を言われたのでびっくりしました。
食いもんの恨みはマジ怖いっすね。
KISSの人ですよね? 病気はイヤだなあ。
投稿: とら猫 | 2009年10月29日 (木) 19時13分
Fukkoさん。
じゃあ今度は、リサーチにリサーチを重ねて目玉が飛び出るほどうまいラーメン屋に連れてってあげれば、母の恨みも晴れますかね!
投稿: とら猫 | 2009年10月29日 (木) 19時14分
もちゅみさん。
ラーメン屋のレベルは確実にこの数年であがってますからね~。
当時のラーメン本を見ると、結構怪しい店が載ってます。今はラーメンマニアも増えて皆さん舌が肥えちゃってますから、滅多な店は載せられないでしょうね。
投稿: とら猫 | 2009年10月29日 (木) 19時16分