出し抜けシネマ論

ハプニング

出し抜けシネマ論⑪~インドな味つけ~

Photo『ハプニング』を鑑賞。

どんなシネマを撮っても未だに『シックスセンス』の! という冠がついてしまう、ちょっと悲しいシャマラン氏の最新作。

ちなみに、私は好きです、シャマラン氏。じつは、私のシャマラン初体験は『シックスセンス』ではなく『アンブレイカブル』。『シックスセンス』は公開当時、世間が一丸となって盛り上がっていた感があったので、あまのじゃくな私はスルー。観たのはシャマラン氏が不遇時代に入ってから。

『アンブレイカブル』はレンタルで観ましたが、ふ~ん、という程度の感想しか持ちませんでした。

シャマランに目覚めたのは、なんといっても、『サイン』でしょう。これにはガImg_0797ツンとやられました、衝撃を受けました。きわめて胡散臭い題材を扱っておきながら、ストーリーの根底には家族愛が脈々と流れ、しかも、あのエイリアンのデザイン。いや、すごい。奇跡の珍品ですね。

『サイン』以降の作品は、シャマラン節がこれでもかと炸裂する、『シックスセンス』で獲得したファンを次々とおいてけぼりにしていくという強力なもので、例えるなら、そう、踏み絵。世間のシャマラン離れが急激に進んだのもこの時代でしょう。

そういうわけで一般的にはこてんぱんに扱き下ろされている『ヴィレッジ』も『レディ・イン・ザ・ウォーター』も、私は意外と好きだったりします。エスプリのきいたセリフも癖になる。

Img_0900なんだかんだいっても独創的。今回の『ハプニング』は、もはや完全に我が道を爆走しているシャマランワールドを堪能できる、貫禄のというか、腰のすわった作品。こういう癖のあるシネマを撮れる人、なかなかいないですよ。

それと、出たがりなんだな。『レディ・イン・ザ・ウォーター』では準主役級の扱いでスクリーンを闊歩していましたので、さすがに反省したのか、友達に諭されたのか、『ハプニング』での出演はちょこっとだけ。

肝心の内容については、これはもう、どこを切ってもシャマラン風スパイスでこってりと調味されているので、好きな人は何杯でも食べられてしまうでしょう。

上映終了後、「なんだこりゃ~!」と絶叫した若者がいましたが、まあ、気持はわからないでもない。

ただね、シャマラン作品だもの。『シックスセンス』的などんでん返しを期待するのはもうやめにして、氏だけが持つ個性をじっくりと味わうのが吉。

評価:★★★☆

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REC

出し抜けシネマ論⑩~もっと冷静になりましょう~

Rec『REC』を観ました。

最近流行り……かどうかはわかりませんが、ハンディカメラを使ったドキュメンタリータッチのホラー作品です。スペイン映画なのですが、本国では封切り時に失神者が続出したという、まあホラー映画にありがちな触れ込みに誘われて、過酷な仕事のスケジュールの合間に息抜きがてら近くのららぽーとまで足を伸ばしたのですが……

これが近年稀に見る失敗作!

ホラー映画に関しては評価が甘くなるという噂の私でも、この映画はちょっと酷いんじゃないかと言わざるを得ません。

まずもって音がでかすぎ! これって本当に監督が意図したこの映画本来の音量レベルなんでしょうか? 映画館の音響設備が音割れを起こすほどの爆音だったので、映写室のスタッフの手違いかと真剣に思いました。

そのうえ主人公のリポーターのお姉さんが興奮しやすいたちで、金属質なキンキン声できImg_0329ゃーきゃー喚くものですからたまったものではありません。ストーリーを楽しむまえにこのお姉さんの絶叫ショーで、始まって数十分後にノックアウト。私の感情メーターは飽和してしまい、それ以降どんなショッキングなシーンが出てこようが虚ろな心かつ醒めた目で淡々とスクリーンを眺めるのみ。

久しぶりに中座したいと思いました。

惹かれるアイデアは盛りだくさんなんですけど。密閉された古アパートという舞台設定なんて素敵ですし、暗闇を這いずりまわるImg_0340シーンも緊迫感があっておっかないと思いますよ。

しかし! やはりこの絶叫パーティには耐えられません。このせいで映画にすらなっておらず、ほとんど拷問に近い。

なんでこんなにうるさいんだろうと訝りながらなんとか完走しましたが、エンドロールで流れた楽曲を聴いて納得。図ったようにけたたましいだけのヘビィメタル。

うるさいのが好きなんですね、この監督さん。

評価:☆

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フェイル・セイフ~未知への飛行~

出し抜けシネマ論⑨~これがホントの苦渋の決断~

Failsafe 『十二人の怒れる男』は密室サスペンスの傑作にして最高峰でしょう。しかも、監督のシドニー・ルメットはこれが長編デビュー作と言うからタダものじゃない。

『フェイル・セイフ~未知への飛行』はそんなルメットが1964年に撮った作品で、毛色はだいぶ違うものの、密室劇の秀作。この人、けっこういろんなタイプの映画を撮っているんですけど、やはりこうした社会派サスペンスでこそ、匠の手になる日本刀のような切れ味を発揮する監督だと思います。

『フェイル・セイフ』の舞台はアメリカとソ連が核をちらつかせて睨み合う冷戦の時代。ちょっとしたシステムの故障と当時に、ソ連側が新型の妨害電波を放つという不運が重なって、水爆を搭載した米軍機に「モスクワを壊滅せよ」という命令が下ってしまいます。Img_0114_2 

もちろん、アメリカ側に敵意はなく、大統領もソ連のトップとホットラインで密に連絡を取り合いながら、最悪のシナリオの阻止に努めます。

「いったん命令が出されてから5分が経過すると、口頭での命令変更はいっさい無効となる」という設定が秀逸。つまり、一定時間が経過すると、敵側が大統領の声をマネして架空の命令を偽装する恐れがある……そのため、大統領が命じた作戦であっても、5分経過すると、その大統領ですら口頭での指示変更はできない!

Img_0118 大統領もこの爆撃機に無線で連絡し、水爆投下命令はただのミスだから引き返せ! と必死で説得を試みますが、軍規を叩き込まれた立派なパイロットたちは聞く耳を持ちません。

こうして解決の糸口もないまま、映画はすさまじいクライマックスへとなだれ込んでいきます。パイロットの奥さんが登場してやはり説得を試みるシーンはスリリングで迫力満点。映画の中のクライマックスのひとつでしょう。

とにかく予算がなかったらしく、物語はほとんど、大きなモニターのある作戦司令部と大統領の執務室のみで進んでいき、どちらもコンクリートが打ちっぱなしのシンプル極まりないセットなのですが、この無駄を排除した雰囲気が妙にリアルで生々しく、サスペンスを盛り上げるのに一役も二役も買っています。Img_0184 

悲劇へのカウントダウンが始まるなか、アメリカ大統領のとった苦渋の決断とは? これはもう驚きとしか言えませんね。『ミスト』に匹敵する驚愕のエンディングでしょう。

身勝手な意見で場を混乱させる識者や、いざというときに固まってしまう大佐、大統領から相手の心の動きまで訳してほしいと言われる若い通訳など、いろんなタイプの人間が集まってドラマを紡いでいくスタイルは、『十二人の怒れる男』でも見せたようにこの監督の真骨頂。とくに、大統領役を毅然と、かつ、人間臭さを醸しながら演じるヘンリー・フォンダがたまらなくいい。

妙なCGを使わなくてもいい映画は作れるというお手本のような傑作。ただし、邦題は映画の内容をまったく伝えていないので赤点。

評価:★★★★☆

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チェンジリング

出し抜けシネマ論⑧~見覚えのある井戸掘り~

Photo_3 『チェンジリング』です。老いてなお盛んなクリント・イーストウッドが同名の映画を撮るようですが、こちらはピーター・メダックが1979年に生み出したオカルトホラーの傑作で、まったくの別物。

降ってわいたような事故で妻と娘を失った初老の音楽家が、過去と決別するために移り住んだ古い邸宅で、夜な夜な奇怪な音が鳴り響き、説明のつかない現象が頻発するようになる……いわゆる、幽霊屋敷もの。

こうした胡散臭いテーマを主軸に据えながら、常軌を逸した展開に苦笑させられることも、物語が破綻することPhoto_7 もなく、しかもきちんと怖がらせながら、初めから終りまで魅せてくれる映画というのはとても希少です。ぱっと思いつくのは『オーメン』か、お化けテイストはキューブリック風味で薄められていますが、『シャイニング』くらいでしょうか。

が、『チェンジリング』は怖いです、ゾッとします。うだるような夏の夜の納涼にもってこいでしょう。残虐シーンもないので、純度100パーセントの恐怖がたっぷりと味わえます。幼少の頃、おばあちゃんの家で「あなたの知らない世界」を見たときに感じたような、後ろに誰かが立っていそうな怖さに近いか。

Photo_9ところで、この映画にはある有名作品に酷似しているシーンが登場します。そう、『リング』です。ぶっちゃけ、『リング』の原典はこの映画じゃないでしょうかね。

それくらい、『チェンジリング』の井戸掘りのシーンは構図といい、状況設定といい、『リング』にそっくり。いや、『リング』がそっくりなのか。

残念ながら、ビデオは廃版のうえ、DVDでも再販されていないので、鑑賞するチャンスは少ないでしょうが、観ておいて損はないオカルトホラーの掘り出し物。「取り替え子」を意味するタイトルも興趣があって素晴らしいですね。

評価:★★★★

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フィクサー

出し抜けシネマ論⑦~看板に偽りあり!~

Photo_2十年ものの赤ワインのような作品です。ジョージ・クルーニーは渋くて格好いいですし。平素はB級ホラーやサスペンスなどを嗜好するトランスレーション猫ですが、こうした骨太なドラマも意外と好きだったりします。

しかし!Photo_10

「罪を消したければ彼に頼め」って宣伝文句はいかがなものかと。私はこのコピーを読んで、『フィクサー』という映画は、ジョージ・クルーニー扮する“揉み消し屋”がニヒルに暗躍する、社会が孕んだ皮肉を抉ってみせるダークなドラマかと、勝手にイメージを膨らませておりました。

が、当の“揉み消し屋”はトラブルをフィックス(揉み消す)するどころか、フィクサーという仕事に疲れ果て、嫌気が差し、足を洗いたがっているのです。社会の悪を揉み消しているのは、実際のところ、クルーニー氏ではなく、敵側の企業の弁護士だったりします。

Photo_12そういうわけで、裏稼業に生きる男の苦悩(というか日常)を描いた人間ドラマとして観れば、いささか実直すぎる嫌いはありますが、水準以上の佳作と言えるでしょう。私も嫌いじゃありません。主人公が馬に歩み寄っていくシーンは突飛というか、それがカギを握っていることに驚きましたが。

いずれにしても、この陳腐なコピーは反則でしょう。担当者は実際に自分の目で『フィクサー』を見ているのかと訝ってしまいます。安っぽいB級映画じゃないんですから、言葉には責任を持ちましょう。

評価:★★★☆

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ミスト

出し抜けシネマ論⑥~神々の怒り~

Photo 『ミスト』を観ました。

封切りを楽しみにしていた映画ですが、“スティーブン・キングがエンディングを絶賛!”という謳い文句に一抹の不安を感じたのは私だけでしょうか。正直なところ、B級テイスト溢れる素敵な触手がスクリーンに現れた刹那、ああ、『ドリーム・キャッチャー』の二の舞か、と背中に冷たいものが走りました。

しかし、さすがはフランク・ダラボン。怪物が出ないヒューマン系のキング作品とはいえ、『グリーンマイル』と『ショーシャンクの空に』という冗長な原作を見事に料理してみせた実績は伊達じゃなかった。今回もまた、原作の『霧』をはるかに超えてみせました。Photo_6

『ミスト』において、怪物の存在は料理のツマでしかありません。本当に醜いのは怪物ではなく人の心なのだ――まあ、珍しくもないテーマですが、フランク・ダラボンは、スーパーマーケットに閉じ込められた人々の心が壊れ、歪んでいく有様を、霧に潜む怪物と対比させながら、どっしりとした視線で描いていきます。

根底に流れているのは人間の愚かさ。戦争に手を染め、宗教におぼれ、そして、いかに人間が選択を誤るかということ。

壮絶なエンディングも、こうした愚かさを描き切ろうとした監督にとっては必然だったのでしょう。よかれと思ってやったことが裏目に出てしまったとして、誰がその判断ミスを責められようか。そのミスを愚かだと批難する人もまた愚かなのではないか。すべての結果には、状況があり、過程があり、原因がある。愚かさの本質とはいったい何であるのか――そうしたPhoto_5 痛々しい問いを、『ミスト』は投げかけてきます。エンドロールが流れる頃には、妙な触手のことなど遥かイスカンダルの彼方へ。

たしかに胸が苦しくなる幕切れですが、そこには目を背けられない、善悪という概念では割り切れない何かががあります。『グリーンマイル』や『ショーシャンクの空に』とはまた違ったかたちで心を震えさせる何かが。

『ミスト』は重厚なヒューマンドラマと、スティーブン・キング作品の持つ熱いB級魂が邂逅を果たした奇跡的な作品です。まずは、『霧』という危ない橋を貫禄たっぷりに渡り切ってみせたフランク・ダラボンの勇気と才能に、惜しみない拍手を送りたいですね。

評価:★★★★☆

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ファンタズム

出し抜けシネマ論⑤~銀玉に魅せられて~

Photo 『ファンタズム』という映画がありまして、トランスレーション猫のツボを刺激する愛すべきカルト作品です。

“ホラー映画”という枠で紹介されることが多いようですが、ちっとも怖くありません。これほど怖くないホラー映画も珍しいでしょう。とりわけ、悪玉と善玉が対決する追いかけっこのシーンでは、稀に見るほど緊張感に欠けたクライマックスが堪能できます。

ストーリーを要約すると、謎の銀玉“シルバースフィア”を操る地獄の葬儀屋トールマンがアメリカの田舎町に現れ、夜な夜な墓を荒らしては掘り出した死体を小人に変えて、世界征服を企むというもの。さっぱりわかりませんね。でも、これでいいのです。『ファンタズム』においてストーリーはさほど重要ではありません。

はっきりいって駄作の烙印を押されて闇に葬られてもおかしくないレベルの作品なのですが、なぜか少数のファンを惹きつけてその後もパート4まで続編が制作され(しかもすべて第一作と同じ監督!)、現在では、カルト作品として確固たる地位を築いております。監督のドン・コスカレリは昨年、名だたるホラー映画監督の短編を集めた“マスター・オブ・ホラー”シリーズに参加していましたし。

『ファンタズム』が一部のファンを熱狂させる最大の理由は、なんといっても“シルPhoto_2バースフィア”でしょう。この銀の玉がとにかくクールで、霊廟の中をビュンビュン飛び回って侵入者に襲いかかります。右の写真のように刃がジャキンと飛び出し、敵の頭に猛スピードでぶっささるのです。こうなるともう逃げられません。なぜなら、内蔵されたドリルがギュイーンと伸びていって敵の頭にガリガリと穴を穿つのですから。

それと03050003霊廟の美術も秀逸。白を基調とした美しい回廊はキューブリック作品を思わせ、その中を上記の“シルバースフィア”が暴れまわる構図はとても幻想的。効果音や音楽もインパクトがあって素晴らしい。小人の造形、異次元空間へのポータルとなる二本の銀の棒、その先に広がる謎めいた世界の光景など、アイデアのひとつひとつは才気を感じさせるに充分なレベル。

が、悲しいかな、ドン・コスカレリは監督としての才能がイマイチだったのでしょう。もっとも、このもたついた演出も魅力のひとつです。

私はそんな『ファンタズム』が大好きなので、今後もちょくちょく取り上げていきたいと思います。

評価:★★★(心の中では★★★★★)

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ノーカントリー

出し抜けシネマ論④~病めるアメリカ~

『ノーカントリー』を観ました。

Photo なにしろコーエン兄弟の新作ですから。星がいくつあっても足りない不朽の名作、『ファーゴ』の監督ですから。期待するなと言われても期待してしまいます。

結論。この作品がアカデミー賞を獲るなんて、アメリカって病んでるな~と思いました。

職人の手になる洗練された佳作ですが、『ファーゴ』を観たときのような心地よい充足感は得られません。バイオレンス色が濃すぎるのです。

コーエン兄弟は“マジメ”な監督さんです。どの作品でも、“マジメ”を追及していくと“ユーモア”が生まれるというパラドックスを巧みに用いて妙なおかしみを醸してみせます。とってつけたような冗談で強引に笑いを作ろうとはせず、素朴な人々の発する素朴な台詞の中から、さりげなくユーモアを掬い取ってみせる。腹を抱えるほどではないにせよ、ひとりほくそ笑んでしまうようなユーモア。普通であることのおかしさ。

『ノーカントリー』でもこうしたユーモアが散見されますが、なぜか、あまり笑えません。殺し屋シガーの奇想天外なおかっぱ頭も、最初は楽しいですが、この殺し屋の徹底した非情ぶりの前に霞んでしまいます。トミー・リー・ジョーンズ演じる老いた保安官は、さすがに渋くて格好いいですが、背負っているものがあまりにも重過ぎてまったく笑えません。ついでに言えば、マフィアの金を盗んでシガーに追われImg_0273るテキサス男にジョシュ・ブローリンを配したのはミスキャストでは。直球すぎて遊びがない。

おそらく、アメリカという国の闇を真っ向から描くのが狙いだったのでしょう。壮絶なバイオレンスもそのための調味料のひとつだと。

しかし、コーエン兄弟。その調味料をちと効かせすぎちまったのでは。

評価:★★★☆

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バンテージ・ポイント

Photo出し抜けシネマ論③~羅生門を引き合いに出されても~

封切りしたばかりの映画ですが、「バンテージ・ポイント」を鑑賞しました。

いやいや、最近の映画の中ではダントツで面白いですね。上映時間の90分間、最初から最後までいっときも緊張感が緩むことなく突っ走り続ける、花粉症で物憂い気分も吹っ飛ぶ痛快ムービーです。

掻い摘んで説明しますと、スペインの広場で演説中の大統領が何者かに狙撃され、現場でその瞬間を目撃した一般人やらシークレットサービスやら謎の人物やらの視点から事件を振り返っていくことで、徐々に陰謀の全容が明らかにされていくというストーリーです。冒頭から大統領が撃たれるのでゆっくりポップコーンを頬張っている暇はありませんし、その後も矢継ぎ早に新たな謎が提示されては解決されていくため、スクリーンから一瞬も目が離せません。

どの部分を切り取っても刺激的で見応えがあるのですが、圧倒的に面白いのは映画前半2008_03_16_032_edited1 の、各目撃者の視点から狙撃前と狙撃後の展開を追っていくシークエンスですね。それに比して後半は、謎解きのテイストが薄くなってハリウッド流カーアクションが炸裂するので、いささかワンパターンの感は否めません。後半にもう一捻りあったらサスペンスの名作と称えられていたかも。

それでも、全体としては質の高いエンタテイメントですし、投資した金額以上の満足感が得られること間違いなしのオススメ映画です。

ちなみに、「黒澤の“羅生門”を彷彿させる云々」という評はまったくの的外れです。

評価:★★★★☆

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ザ・ブルード 怒りのメタファー

出し抜けシネマ論②~邦題に惚れる~

仕事が忙しくなると息抜きに、というか、現実逃避のためにやたら掃除をしたくなったり、CDの並びが気になったりして、また、こういうときにかぎってなぜかこうした作業が捗ったりするのですが、それはさておき、以前から楽しみにしていたクローネンバーグの初期作品を借りることができたので鑑賞しました。

Photoタイトルは「ザ ・ブルード 怒りのメタファー」。作品の持つ異様なテンションを伝えるすばらしい邦題ですね。最近の邦題は捻りもなくカタカナ化するだけで味気ないことこの上ないのですが、それに比して昔の洋画の邦題は配給会社の個性を写す鏡のようで好感が持てます。「殺しのドレス」とかセンスいいですね。

本作品の「怒りのメタファー」という副題も、なにやら説明のつかない迫力を醸し出していて、言葉フェチとしてはたまらないです。もちろん、映画を観ればこの副題も合点がいくのですが、肝心の映画のほうはいささか合点がいきません。

まあ、クローネンバーグですからね。辻褄合わせを期待しては03040004い けません。小難しい理屈などはトイレに流してしまい、この監督の提示するアブノーマルな世界にどっぷりと浸るのが正しい鑑賞法と言えるでしょう。

にしても、ちょっと盛り上がりに欠けるかな。「怒りのエネルギーが具現化した生命体」という発想はいかにもクローネンバーグらしくて秀逸なのですが、氏の他作品で見られるような、強引に観客を引っ張り込む腕力が足りないような気が。期待しすぎましたかね。そこそこ面白いんですけど。

評価:★★☆

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レクイエム・フォー・ドリーム

出し抜けシネマ論①~世界一怖い冷蔵庫Photo

「レクイエム・フォー・ドリーム」を観ました。

いや、壮絶な映画ですね。近所のツタヤでは「SFサスペンス」的な扱いでカテゴリー分けされていて食指が動きそうで動かなかったのですが、メジャー級に期待を裏切られました。なにしろちっとも「SFサスペンス」ではなかったので。簡単に言えば、「ドラッグやると堕ちますよ」というテーマを極限まで追求したような、全編を通して陰鬱なムードが支配する救いもへったくれもない映画です。

しかし! これがいいですね。登場人物の堕ちっぷりが凄まじく、とりわけ、主人公の母親の墜落スピードには目を見張るものがあります。ヤブ医者に処方されたダイエットピルを大量に服用して本人が気づかないうちに麻薬漬けの生活に陥ってしまうのですが、幻覚症状が出てからの描写は役者の力量も手伝ってほんとうに凄まじい。

なかでも秀逸なのが冷蔵庫が動くシーンですね。もちろん幻覚を見ているのですが、ガタン! ガタン! と迫ってくる冷蔵庫の迫力はけた外れで有無を言わせません。しばらく夢に出てくること請け合いでしょう。

ヤク中たちが転落していくだけのストーリーなので深みはありませんが、刺激的な映像と 03040008焦燥感を煽るメインテーマが素晴らしく、物語はゆったりとした前半から徐々に加速していき、彼らの怒涛の落ちっぷりが間断なくスクリーンに叩きつけられるラスト30分の勢いなどは完全にスピード違反で、これが映画ではなく一般道だったら即・免停を食らっているところです。

ドラッグの恐ろしさをテーマにしていながら、説教臭くならないところがまたいいですね。この監督はとにかく堕ちていく人々の姿を純粋に描き切りたかっただけで、ドラッグの危険性を啓蒙するつもりなど微塵もなかったのでしょうね。拍手喝采。これぞ映画。

評価:★★★★☆

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