の~べる猫

地獄谷のポニュ

Img_1402ポニュはさかなの子。

結婚十年目を迎える恐妻家の田中さん(男性、39歳)が、イモ洗いのごとき通勤ラッシュ、禿・好色課長の理不尽な罵り、玄関前に人がいるから休みますとぬかすへっぽこ部下などに耐えながら、ストレスにまみれたいつもの一週間を過ごしたあと、わずかな心の安息を求めて独り出かけていった日本海は地獄谷で、やはりこれも、魚でありながら、魚として回遊を続ける生活に疲れ、苦悩し、そうした境遇に自らを追いやった魚社会を呪い、憎しみにわだかまった心を溶かすべImg_1404 く、禁断の地、地獄谷をふらりと訪れたカジキマグロのマグ子さん(女性、35歳)と運命的な、言ってみれば、会った瞬間に電流がびりりと五臓六腑を駆け巡るような邂逅を果たし、後ろめたさと罪悪の念を感じながらも、似たような業を背負い生きる互いに共感、同情し、湧きあがる欲望に抗うこともできず、許されざる一夜を過ごし、その結果、人間と魚の子としてこの世に生を受けた。

この子はポニュと名付けられた。地獄谷のポニュ。

Img_1237こうした反倫理的な生い立ちを持つポニュは、まあ、当然のことながら、ぐれた。たばこ、酒、ドラッグ、恐喝、ひったくり、振り込め詐欺、おれおれ詐欺、ピンポンダッシュなど、ありとあらゆる悪に手を染め、七つの海のその悪名を轟かせた。

やがてポニュは、おのが心に固着する悪意の源泉は田中という名のふざけた浮気者のホモサピエンスにあると断じた。その想いはやがて人間という種全体への怒りへと発展し、マッドサイエンティストの手で自身に機械的改造を施してもらい、歩けるようになると、忌々しい地獄谷から陸へとあがった。

地球を食いつぶす人間どもに復讐するために。

にほんブログ村 猫ブログへ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

不定期連載甲殻系ハードボイルド小説「弔鐘の鳴る丘で」①

「だからトニーのやつに言ってやったのさ。おまえ、そりゃ、フライパンじゃない、ソースパンだってな。そのときの03050004_2やつの顔といったら、鳩が豆鉄砲食らっても斯くやって表情でね。しまいにゃ、いや、ありゃ、ソースパンじゃない、スキレットだなんて言い出す始末さ。今どき、スキレットなんて使うやつがいるのかね、まったく」

03050001いったんマイケルの冗談が始まったら、日が暮れるどころか、夜の帳が降りて、丑三つ時を過ぎ、翌朝のお天道様が昇るまで帰れやしない。ほんと、底なしなんだ。それに、腹を抱えて笑っちまうくらい質が高いときてるから、バーで何気なく隣のスツールに座っちまったがために、やつのジョークの絨毯爆撃を鼻血が出るほど食らって昇天する哀れな子羊たちを何度も目にしてきた。なんでも、やつが言うには、その神の与えたもうし“軽口”で、二ダースばかりのギャングに囲まれるという窮地を脱したこともあるらしい。最後には連中のボス格と肩を組んで悠々と歩き去ったって話だ。いや、俺たちには“肩”は組めないな。“甲殻”を重ねて歩き去ったと言うべきか。

なにしろ俺たちはダンゴムシなんだ。

知ってるだろう? 庭に出て、しばらく放置しておいた植木鉢なんかをどかしてみると無数03050002 にひしめき合ってる姿を見かけることがあるアレさ。誰だって一度は、そんなふうにして俺たちと触れ合ったことがあるはずだ。

ダンゴムシなんて、と笑ってくれるな。先の植木鉢のエピソードが示すとおり、俺たちは隠れるのが抜群にうまい。それに体を丸めて銃弾から身を護ることもできる。だから、諜報員やシークレットサービスになる仲間も結構多い。その道では重宝される種族なんだな。

で、この俺は探偵をやってる。ダンゴ・ムシーノってんだ。冗談みたいな名前だろ。同感だ。が、名前を覚えられやすいってメリットもある。この稼業では大事なことさ。

続く……

| | コメント (0) | トラックバック (0)